親元から離れて一人暮らしを始めた大学時代、せっせとアルバイトに励んだ。世はバブルだというのに家業はかんばしくなく、仕送りは月にたったの4万円ポッキリ。奨学金の4万円と合わせても、神戸のマンションで一人暮らしをするにはゼンゼン足りず、生活費とお小遣いは自分で稼ぐしかなかったのだ。
ファーストフードを皮きりに、定番の家庭教師、ゼミの教授に勧められた遺跡発掘現場など、いろんなアルバイトをした中で、いま思い返しても変わっていたなあというのが「阪神タイガース戦のチケットを買うために並びます」だった。
その年は阪神タイガースがン10年ぶりの優勝をするかもというので、阪神地区は会う人全員が阪神ファンかと思うほどの盛り上がりだった。当然、本拠地の甲子園球場での試合は連日、大入り満員。仕事終わりにどうしても試合が見たい!と熱望する人ばかりで、そんな人たちのために「代わりに並んで当日券をGETしまっせ」という商売が繁盛したのである。
裁判員制度がスタートして、傍聴券を並ぶ人の列がテレビニュースに流れたけれど、あれもほとんどがアルバイトの学生だろう。ただ、私の体験が違ったのは「並んでいる全員が阪神ファン」だということで、並んでいる間じゅう、阪神の話題で見知らぬ誰かと盛り上がるのが鉄則のようになっていた。
正直、四国の田舎から出てきた私には、なぜに人々が阪神タイガースに狂うのか、いまひとつピンとこなかった。とはいえ、そんな思いを口にすると、とてつもなく恐ろしいことが待っているような気がして、にわか阪神ファンとして並んでいた。
「列に並んで、阪神の話で盛り上がる」という内容の割には時給もよく、おかげで阪神タイガースに詳しくなった。あれから20年以上たった今でも、テレビの阪神戦を見る度に懐かしく思い出す。